大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)4617号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(二) 時効

被告らは、本訴請求が事故発生後三年以上経過して提起されていることから、請求権の全部もしくは一部につき時効が完成していると主張する。

そこで考えるに、前二項(損害)に認定した事実に<証拠>を併せると、原告は本件事故直後青木外科医院の項背部両肘部挫傷との診断で実日数にして約半月程度通院し、その頃継続して二ケ月間休業したが、右が本件事故に基因するものであることは知悉していた。ところがその後首、眼、関節等の痛みが発生して数ケ所の病院で診察を受けたが、別に異常はないとか、関節ロイマチスとかあるいは自律神経失調症とかの診断を受け、特に交通事故との関係を指摘されることもなく、また右症状が当初の右挫傷の診断と医学的に直接結びつかないものであり、当時においては未だ交通事故といわゆる鞭打症との関係が世間一般に喧伝されてもいなかつたため、原告としては右症状が本件事故に基因するものと知る由もないまま時を経過し、昭和四一年一〇月東邦大学病院の診断で鞭打症後遺症と指摘されて初めて右症状が本件事故に基因するものと考えるに至つたものと認らられる。

ところで、身体傷害による不法行為においては、身体という保護法益の侵害に基づく一個の損害があるのみであつて、その損害の具体的な各費目は右一個の損害を算定するための徴憑事実にすぎないと考えるべきであり、従つて例えば治療費の出捐や休業による利益の喪失が継続的ないし間歇的に具体化する場合にあつても、それが当初から予測されうる範囲内のものである限りにおいては、その消滅時効は加害者の不法行為と受傷の事実を知つた時点からその全体につき一括して進行するものと解すべきであるけれども、事故から相当期間経過後に当初予測しえなかつたような後遺症が発現し、これに基づき損害が更に発生したような場合は、右後遺症による損害に関する消滅時効は、被害者がその症状とそれが当該事故と因果関係を有することを知つたときから、当初の損害に関するものとは別個に進行すると解すべきである。

そこでこれを本件についてみると、原告が事故直後青木外科医院に通院し継続して二月間ほど休業した期間の損害(即ち項背部両肘部挫傷そのものに起因する損害)については、本件事故のときに損害および加害者を知つたものとしてその時から時効が進行し、これより三年を経た昭和四〇年五月五日の経過により時効期間が満了したものというべく、右につき被告らが本件第三回口頭弁論期日において時効を採用したことは訴訟上明らかであるから、前二項の(二) 休業損害のうち事故直後の二ケ月間の休業に基づく損害一〇万円および慰謝料のうち右期間中に既に生じた精神的苦痛に関する部分については時効によりその請求権は消滅したものというべきであるが、その後の鞭打症後遺症に基づく損害については、昭和四一年一〇月東邦大学病院の診断を受けたときにこれが本件事故に基づくものであることを知つたものとしてこのときから時効が進行し、従つてこの部分に関する限り時効の抗弁は理由がないものといわなければならない。(倉田卓次 浜崎恭生 鷺岡康雄)

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